目黒の小川八重子先生のご自宅へ伺った折、何かの拍子に押入れのふすまが開いて、すごい量のお茶の袋が転がり落ちた。半端な量ではなく、驚いて伺うと、「そう、今年は在来種のお茶もあまりいい出来でなくてね。でも買い取ったの」


 お茶の木に「在来種」と呼ばれるものがあるのを初めて知った。


 在来種は簡単な言い方では、昔からある茶の木。その根は地中深く5メートル以上もある。石を溶かして養分とし、肥料がいらない。農薬も不要である。ただ収穫するまでに5年はかかり、効率が悪い。


 そこで、戦後、品種改良によって「やぶきた」という「改良種」が作られた。お茶農家にとってどんなに嬉しい品種改良であったことだろう。「やぶきた」は浅いひげ根で地上の肥料を吸収し、どんどん育つ。が、病気や虫には弱く、農薬がなくては育たない。


 「在来種」はどんどん切られ、「やぶきた」が日本中の茶畑に植えられるようになっていく。先生はあせった。農家をまわり、「在来種」の良さ、大切さを説いて回り、日本のお茶のために切らないでと言いつつ、買い取っていく。


 が、どんなに良い「在来種」であろうと、農産物。その年の気候に左右され、出来不出来がある。でも先生はその不出来をも買わねば、「在来種」を残せないとご存知だった。先生の心配通り、今や「在来種」の生産量は激減し、日本ではたったの3%しか残っていない。皆さんの飲んでおられる日本茶の90%以上は「やぶきた」である。


 良い物を、そして先生のおっしゃる「ほんまもの」を残すことが、どんなに大変なことか、、、お茶に限らず「ほんまもの」に出会うときは、いつもあの押入れの大量の茶袋がよみがえる。

                                                     (2006.2.6)


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第5回 「ほんまもの」のお茶を残す

小林 節子


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